務であるとすることは両立しないのではないかという議論を見ることもありますが、努力義務として通報を強く呼びかける形での義務付けで通報者の背中を押すことと、実際に通報してくれた場合に責任の減免を考慮できるとすることは、必ずしも矛盾はしないだろうと思っています。結城弁護士 最後に、内部通報制度の整備・運用について他の論点や疑問点があればお話いただきたいです。Aさん ハラスメント案件の対応は非常に難しく、勇気を出して通報いただいた内容を虚心坦懐に受け止めながらも調査を進めた結果、複雑な人間関係の中で通報者自身が問題社員であったり、被通報者を陥れるためにハラスメント首謀者が先手を打って通報したりするケースがあり得ますので、初動の段階から客観的かつ中立的な調査のあり方が問われます。 また、ハラスメント案件の調査は、社員の人間関係や経歴に詳しく職場への影響を考慮できる人事部門が主導しつつも、“ヒアリング対象に偏りがないか”“社内にあるべき客観的資料の特定はできているか”といった調査計画の策定には法務・コンプライアンス部門がサポートする余地は十分あるといえます。さらに、ハラスメント調査の過程で新たな職場問題が発見されることもあるので、この場合は二次的な調査対応も意識すべきでしょう。結城弁護士 通報促進により虚偽通報や誹謗中傷の増加を心配する企業は多いのですが、感覚としては、日本においては、躊躇もある中であえて通報という手段を選んだケースは、真摯な通報であることが多いと思います。通報内容に先入観を持たず、各通報を適切に取り扱うことで、さらなる通報や二次被害につながる危険を排除することが重要です。Aさん 現場の視点では、“いつまで調査するのか”“どこで線引きするか”の方針決定も悩みどころですね。協力してくれる関係部門を丁寧に誘導しないと制度運用がまとまらず、社内コスト面の合理性も低下しますので、整備面と対になる課題といえます。社内ガイダンス、部門横断勉強会も有益でしょう。Bさん コンプライアンス部門は業務の性質上孤立しがちですので、内部通報対応における苦労や創意工夫を情報共有できる場が広がっていくといいですね。Aさん より根本的には、他社の内部通報制度の運用状況について悩みを吐露し、率直な意見交換ができる場が乏しいということ自体も、ベストプラクティスを目指す上での課題だと思います。結城弁護士 本日は臨場感あふれるご意見をいただき、誠にありがとうございました。ProfileSpecial0211Aさん外資系グローバル企業のインハウス弁護士。法律事務所勤務後、前職では日系大手メーカーの本社コンプライアンス担当マネージャーとして、国内外グループ各社の内部通報制度の一本化プロジェクトを主導。現職でも改正法対応をサポート。Bさん グループ連結で従業員300名弱のIT系企業において、法務業務を専任。法改正をよい機会として、自社の内部通報制度の機能強化策について奮闘中。内部通報制度の終わりなきPDCA―何を、どこまで調査するのか覆面座談会
元のページ ../index.html#13