Lawyers Guide 2023
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が出ました。制度整備後の運用面における課題としても、「内部通報制度が必要な場面で実際に活用されるには、どのようにして調査対応や是正措置の実績を開示すればよいか」という相談がよく寄せられます。Aさん 通報を機に改善がなされた事例として適切な案件をピックアップしてイントラネットに掲載し、制度利用者となりうる従業員へのメッセージにもなるよう取り組むことが考えられます。他方、通報者や案件が特定される可能性を念頭に、当該案件の所管部門の事前確認を得るという配慮も必要でしょう。 また、単に通報された事実関係の有無のみを調査して終わるのではなく、内部通報を通じて、見えなかった経営課題の早期発見・解決に成功した実績をアピールできれば、経営層への強力なメッセージになりますよね。その場合、コンプライアンス部門には調査結果を踏まえた課題抽出能力、関連部門を巻き込み議論をファシリテートする能力も求められます。Bさん 決して“役員の痛くもない腹を探る”厄介なツールではなく、通報の背後にある問題を拾い上げ、所管部門やグループ企業に改善を提案できるメリットの存在も訴えるのが大事ですね。結城弁護士 通報件数は数字のみが一人歩きしがちなのですが、コンプライアンスの取り組みが進んで問題事象が減少したり、職制上のレポーティングラインでの対応がなされたりすることで、件数が減少することもあるはずです。ただ、一般的には、「通報すると何らかの不利益を受けるのではないか」といった不安がどうしても消えないために件数が伸びないことが圧倒的に多いと感じます。この場合、自らが不正に関与していても、自主的に通報したことで通報者の責任を減免するいわゆる“社内リニエンシー”の導入や、不正を認識した際の通報義務付けの制度化がよく議論されますが、Aさんはどのようなご意見でしょうか。Aさん まず、“通報者自身が不正に関与した事例”と、単に“不正の兆候を見聞きした事例”で場合分けが必要です。主に後者の前提に立ってコメントすると、通報の精神的な努力義務を課すことはできても、“実際に通報しないこと”をもってただちに規程違反(懲戒処分)を問うのは現実的には難しい。ただ、通報者保護の体制整備がなされ、通報を躊躇する理由がなくなる外的環境が整う中で、例えば管理職以上の者については、“不正の兆候を認識しながら通報を行わなかったこと”をもって通報義務違反や職務規程違反を問えるかは、各社で検討・整理も可能なのではないでしょうか。近時のコンプライアンス違反事例を見ても、“見て見ぬフリ”によって報われない社員が一定数生まれ、場合によっては役員の責任追及にまで発展するほど企業風土が硬直化することは回避しなければなりません。 勇気をもって通報した従業員を保護することとのバランスからも、“見て見ぬフリを容認しない”という方針も企業風土を基礎付ける一つの重要な要素ではないでしょうか。結城弁護士 不正調査を担当することが多い立場からすると、自ら通報・協力をすれば責任の減免について考慮できる社内リニエンシーが制度化されていれば、ヒアリングの際にそれを対象者に説明することで、協力が得やすくなり、有用な情報を引き出し、事実・原因の究明につながることも期待できます。また、“自ら通報すれば責任減免を考慮すること”と、“不正を認識したら通報すること”が義10

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