Japan Lawyers Guide 2022
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合が少なくなるのでしょうか。榊原弁護士:他社の事情は存じ上げないですが、私が所属した後の方が外部の法律事務所に依頼する分量は増える傾向にあります。内製化する業務もあれば、あえて外注化するものもあります。予算が許せば、二つの事務所に依頼して比較することもあります。また、インハウスロイヤーを雇用した企業の方が法律事務所への依頼額が増加しているという調査結果も出ています。これは企業法務の関わる領域が広がり、業務そのものが増えているのも一因でしょう。平泉弁護士:一般的に、多くの企業では、日々のルーチン業務はできるだけ内製化しつつも、多くのリソースを必要とする場合、高度に専門的な分野の知見を必要とする場合、独立した第三者からの法律意見が求められる場面などには、外部弁護士に依頼することが多いと思います。インハウスロイヤーが入社すると、ルーチン業務についての内製化が進むとともに、それまで認識されてこなかったリスクや、改善点に気付くことも多く、その結果、外部弁護士へ相談することも増えるのではないでしょうか。斉藤:弁護士1年目から企業に入社するなど、インハウスロイヤーのキャリアは多様になったと感じます。平泉弁護士:はい。先程のお話にありましたように、インハウスロイヤーの活躍の場が広がっており、担当業務や所属部署も非常に多様化しています。また、一人ひとりのインハウスロイヤーのキャリア形成も多様になりました。10年くらい前には、法律事務所からインハウスロイヤーに転身するのは、いわゆる“片道切符”だと言われていましたが、現在では、インハウスロイヤー経験者が、その斉藤:企業はインハウスロイヤーに何を期待しているのでしょうか。また、その役割として意識されている点はありますか。平泉弁護士:経済産業省の「国際競争力に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」でも論じられているのですが、法務機能には、大きく分けて、企業価値を最大化するための“パートナー機能”と、企業価値を守るための“ガーディアン機能”があると言われています。インハウスロイヤーにも、その両方の役割を果たすことが期待されていると思います。そのためには、取れるリスクと取れないリスクをきちんと見分け、ビジネスに寄り添った、バランスのよい助言を提供できることが重要だと考えています。榊原弁護士:企業はあえてリスクのある事業に飛び込む場合も結構あり、炎上や賠償リスクについてしっかり検討しておく必要があります。その際にインハウスは当事者として腰を据えて対応するため、安心感を得ていただけるのでは経験を武器に法律事務所に転職する事例も多く見られます。さらに、法律事務所と企業の間で、出向などのアレンジを通じた人材交流も、ますます活発になっています。そうすることで、お互いのことをよく知ることができ、win-winの関係を築くことができます。そのほか、兼業、副業などを行うインハウスロイヤーも増えています。榊原さんも企業にフルタイムで勤務しながら他社の社外取締役を務めていらっしゃいますよね。榊原弁護士:最近はヘッドハンターの方から、「インハウスロイヤーを社外取締役や常勤監査役候補として紹介してほしい」と依頼されることが多くなりました。事業会社の事情に通じているので、ビジネスと法務が理解できる人材として重宝されるのです。もちろん、企業に所属しながら他社の取締役を務めることは並大抵ではありませんが、頑張りどころでしょう。ないでしょうか。許容できないものは必ず止める必要がありますが、いたずらにビジネスを止める存在であってはならないと思います。斉藤:リスク評価として経営者が指標とすべき仕組みはありますか。平泉弁護士:2020年に法的リスクマネジメントに関する国際規格ISO31022が発行されました。このガイドラインでは法的リスクがマトリクス化されており、リスクの分析や評価にあたって参考にすることができると思います。榊原弁護士:評価額など判断が難しい項目もありますね。何らかの根拠を使って計算するしかありません。規格を活用することで、株主や社外のステークホルダーへの説明の根拠になります。株主代表訴訟への備えにもなるでしょう。企業と法律事務所でwin-winの人材交流を

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