Japan Lawyers Guide 2022
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斉藤:どの企業にも共通するコンプライアンスチェック、不祥事対応の業務についてはいかがでしょうか。平泉弁護士:不祥事によっては、法務にその情報が入ってさえいれば、大惨事には至らなかったという例もあると思います。不適切な行為が巧妙に隠蔽されるというケースもあるでしょうが、そもそも、社員に、ある行為が不適切であるという認識自体がなかった、という場合もあるかもしれません。普段から法務とビジネスが密に連絡をとっていれば、早い段階で隠れたリスクに気付くことができますし、現場にも、気になることがあれば、気軽に法務に相談してみようという発想が生まれます。そして、そういった情報に基づいて、早期に是正措置や防止措置を講じることができ、リスクを最小化できます。榊原弁護士:不祥事を起こさない仕組 せっかく、経営トップがガバナンスなどに興味を持ち始めたのですから、その期待を裏切らないように、インハウスロイヤーが難解な内容を分かりやすく経営陣に伝える工夫をすることが必要ですね。人はなじみのない話題について、どうしても避ける傾向があります。関心を持ってもらえるように、嚙み砕いて説明しなければなりません。その点はガバメントアフェアーズ業務などのロビイングのスキルを活かせるのではないでしょうか。みを作るため、内部監査と内部統制部門にインハウスロイヤーが配置される事例も増えてきましたね。社内事情に精通することが必要な業務ですが、不正ができない仕組み作りは法務の業務に非常に近しいのでインハウスは適任かと思います。例えば、“今の仕組みでは循環取引ができてしまう場合に、社内の仕組みを改善する”というような場合ですね。平泉弁護士:法務と社内クライアントの連携を密にする工夫も必要ですね。社内クライアントとの1 on 1を設定したり、ビジネス部門の定例会議に参加したりして、コミュニケーションの場を多く持つのがカギだと思います。頻繁にコミュニケーションがとれていれば、彼らが何を考えているのか、その部署にどのようなリスクが隠れていそうかを早期に把握できます。インハウスロイヤーには、法律に関する質問に答えるだけでよいという受動的なマインドではなく、社内の情報を積極的に取りにいき、アンテナを張って、隠れたリスクを一早く察知したり、気付いた機会や改善点について提案を行ったりという能動的な姿勢が求められています。斉藤:近年案件ごとに法律事務所を使い分ける企業も増えてきました。榊原弁護士:法務部の方の知見や経験の高まりはもちろんですが、インハウスロイヤーの普及もその一因となっているでしょう。弁護士には修習時代の付き合いがありますし、事務所・インハウス問わず弁護士会などで定期的に交流しています。このため、どの分野についてどの弁護士が詳しいかをよく知っているのです。また、専門性だけでなく、企業のことを理解してくれる弁護士を求めています。天才でなければできない仕事は多くありません。それよりも、求める斉藤:インハウスロイヤーがいる企業は外部の法律事務所に案件を出す割品質や具体的ニーズを理解してくれることが大事です。意見書を1枚求めているのに5枚も書いてこられると困ってしまいます。役員向けの資料に使う目的での相談であれば理解しやすい一般用語を使うなど配慮ができる方だととても助かります。今の企業の法務部門では、ニーズに合わせて、複数の弁護士や法律事務所を使い分けることができること自体を目指しているということです。平泉弁護士:外部弁護士の選択は、インハウスロイヤーの重要な業務の一つです。一人の顧問弁護士にあらゆる案件を依頼するというスタイルはもはや過去のもので、複数の外部弁護士と普段から良好なパートナーシップを築いておき、いざというときに、それらの外部弁護士の中から最適な方に依頼して、迅速にサポートを得られるのが理想です。JILAでは、さまざまな法律分野の専門家をお招きして研修などを実施していますので、JILA会員であれば、そういった機会を利用して、外部弁護士との人脈を広げることも可能です。榊原弁護士:法務部員の人脈作りについては、会場受講セミナーであれば必ず講師の方々と名刺交換をした方がよいですね。セミナーの後にご相談や質問のメールをするのもお勧めです。また、中には無料で業務紹介のプレゼンテーションをしてくれる事務所もありますので、後日依頼するのもよいでしょう。インハウスの魅力の一つは法曹人脈の広さ

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