Japan Lawyers Guide 2022
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ビジネスと人権の問題にも長らく取り組んできた。 「従前は国際機関のガイドラインなどソフトローを中心に地道に取り組まれていましたが、人権外交を掲げるバイデン政権の影響もあり、輸出入規制といった通商法のツールや経済制裁を駆使して強制労働等の問題に取り組むようになりました。これはいわばソフトローによる漢方薬のような手法から劇薬を用いた手法の転換といえるかもしれません。この状況下では、これまでの人権分野の実務と通商法の両方の正確な理解がなければビジネスが行えない状態です」(梅津弁護士)。 経済安全保障についても人権と同様に、もはや通商法の理解のみで完結する案件はなくなっていると宮岡弁護士は指摘する。 「例えば経済安全保障上の観点からの先端技術分野の輸出規制が拡大していますが、規制の対象や内容を正確に理解するためには暗号や半導体、エレクトロニクスなどの技術知識が必要になることも多くあります。また、日本の外為法、米国輸出管理規則(EAR)などさまざまな法域の規制が同時に問題になることも増えています。さらに、違反リスクの大小を判断するためには、規制の背景となる国際政治の理解も欠かせません。これらの知識・情報を総動員して、ビジネスにとって最適な判断を行うことが必要になっています」(宮岡弁護士)。 経済安全保障の観点においては、重要な技術を有する企業に対する海外資本による買収等を規律するルールとして、日本では外為法、米国では外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)に基づく投資規制等がしばしば問題になると高宮弁護士。 「こうした投資規制が問題になる場面では、当然通商法だけでなくM&Aの知識が必要になります。また、M&Aの際にサプライチェーンにおける人権上の課題が出てくることもありますが、そうした場合には、長く人権問題に取り組み、人権団体や国際機関の動きも理解した専門家の関与がなければ、表面的な取り組みに終わってしまいます。かけ算のように課題解決に取り組む必要があるのが、現代の通商法分野の特徴ではないでしょうか」(高宮弁護士)。 梅津弁護士は通商法分野について「もはやリーガルアドバイスの範疇を超えている」と説明する。 「一つの問題に複数の法域の法規制が関わっており、すべての国の違反リスクをゼロにはできないことがアドバイスの前提になる場面が増えています。登場する当事者も政府、企業、サプライチェーン、NGO、NPO、一般消費者など、単なる法令遵守にとどまらない幅広い活動を行っている人々も含まれています。その中で各国の法律を見つつ、日本企業がとるべき道をガイドする役割が求められています。むしろ、それができなければ日本の弁護士が関わる意味がなく、かゆいところに手が届くアドバイスが必須だと考えています」(梅津弁護士)。 日々変化する規制動向の アップデートに加え 情報把握のハブ・司令塔の役割も 経済安全保障や人権関連の規制は、内容が複雑・難解な上に変化のスピードが速いため、「企業にとっても正確な情報のアップデートが大切」と宮岡弁護士。同事務所でも、雑誌への記事掲載や事務所のニュースレター等で逐次情報を発信しているが、常に“企業がいま、何をすべきか”を意識しているという。 「更新される規制の内容を正確に発信することは当然のこととして、当該規制を踏まえて企業がまず足元でどう動くべきか、さらには中長期的にサプライチェーンの見直し、合弁パートナーや投資先の選定といった事業戦略上の観点からも有用なアドバイスをできるよう意識しています」(宮岡弁護士)。 各国の動きや規制を把握するには、現地の専門家との連携が不可欠になる。同事務所も米国・欧州・中国など主要な法域の法律事務所と緊密に連携をとっていると高宮弁護士。 「通商法分野における海外の規制に関するアドバイスには、海外の信頼性が高い事務所から正確な情報を取得することが欠かせません。当事務所は、米国・

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