Japan Lawyers Guide 2022
52/133

近はサプライチェーンの選定段階からの人権尊重の観点に基づくリスクマッピングの策定や、人権に対する意識を高めるための社内研修の相談も増えています。人権問題は企業にとって最も重視すべき課題の一つとなりつつあり、対応の優先度が上がってきていると実感しています」(福原弁護士)。 「気候変動や人的資本をはじめとするサステナビリティに関する企業情報の開示について、グローバルな議論が急速に進んでいます。これまでは各上場会社が任意にこれらの開示を行っていますが、改訂コーポレートガバナンス・コードによって、上場企業には人的資本に関する開示が求められるほか、とりわけプライム市場上場企業には気候変動に関する開示が求められる予定です。さらに、将来的な金商法に基づく法定開示書類である有価証券報告書などにおける開示について政府での議論が始まりました。適切な組織体制の構築、ダイバーシティに配慮した社員の育成・登用などの取り組みだけでなく、それをいかに実践しているか、積極的な情報開示が重要です。また、ESG投資のプレーヤーとして海外投資家は無視できない存在であるため、日本語だけでなく英語での情報発信も重視しなければなりません。こうした動きに伴い、ESG情報の開示に関するリーガルアドバイスのニーズが高まっています」(宮下弁護士)。 ESG/SDGsと聞くと新しい法的分野と思いがちであるが、コーポレートやガバナンス、プロジェクトファイナンス、キャピタルマーケット、危機管理対応など、同事務所がこれまで積み重ねてきた知見が活きる分野の統合的なプラクティスであり、案件を手がける際はそれぞれの分野に長けた弁護士たちがすぐに集まって動き出すという。また、ESG/SDGsの取り組みは欧州が中心となっているため、ただでさえ日々新しい情報がもたらされる分野において、国内だけでなく海外の情報にもアンテナを張り続ける必要がある。幅広い知見が総合的に求められる課題に対し、弁護士一人ひとりではなくワンチームとして向き合う。ワンチームでの取り組みは、“複数の弁護士が協力して最高の質を有する法務サービスを提供すること”を基本理念に含む同事務所が強みとするところだ。断基準がない”というのが一定の認識だ。ESGでは、さまざまな社会問題に対し、企業がリスクを認識した上でどのような戦略によって取り組んでいくかが問われているともいえる。 「英豪の現代奴隷法やドイツのサプライチェーン法など、各国が関連する立法を競い、企業に求められる人権コンプライアンスの水準は徐々に厳しくなっています。もっとも、サプライチェーンの人権リスクを評価するにあたり、直接の取引を行っているサプライヤーと比較して、二次・三次サプライヤーの状況を把握することは簡単でなく、またいまや日本国内だけでビジネスが完結している企業は少なく、グローバルで見ていかなければならないとなると、費用も労力もかかります。また、人権リスクが解消されないまま取引から撤退した企業に対して国際的批判がなされるケースや、取引の性質等に鑑みると撤退が困難なケースもあり、企業が新たに事業を開始する場合には人権リスクをより深度をもって検討し、評価することが求められつつあります。一方で、“どこからが人権侵害か”という線引きを行うことが困難な場合もあり、深度ある検討のためにはさまざまな要素を考慮する必要があります。企業では有事に至ってしまう前の予防的な取り組みも増えてきていますが、仮に訴訟に発展しても、当事務所には国内外の訴訟経験が蓄積されているため、適切な解決に導くことが可能です」(福原弁護士)。 「脱炭素化やこれを実現するために再生可能エネルギーを活用する流れは世界的に、かつ着実に進んでいくでしょう。また、先行する欧州ではさらに一歩進み、“何をもってグリーンな‘Environment’の取り組みといえるのか”といった定義付けの取り組みが始まりました。例えば、太陽光発電を導入するためにパネルを設置することは脱炭素化の面から見れば環境保護に効果的ですが、パネルを設置するために大量の森林を伐採したり、設置工事で発生した残土による土砂崩れが起こったりしたとしたら、それは環境破壊であり、グリーンとはいえないでしょう。今後は、世界的に、目先の成果だけでなく中長期的な視点によるESGの取り組みが評価されていく流れになっていくと思います。他方で、国内に目を向けてみると、事業における使用電力の化石燃料から再生可能エネルギーへの置き換え、保有不動産の環境認証取得、排出権取引によるオフセット取引などによって、数値的にも着実に成果を上げている企業はあります。“実践できる取り組みにはどんなものがあるのか分からない”などの悩みを抱えられて 定義や基準、ルールがない中でも “社会的意義”を追求すれば見えてくる 現状、ESGについての標準的な定義は存在せず、評価指標についても各評価機関側の判断で行われている。法令などに定められた基準もなく“世界共通の判

元のページ  ../index.html#52

このブックを見る