Japan Lawyers Guide 2022
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 ベンチャー企業にとっても、投資家にとっても、ベンチャー法務特有のイシューが多く、経験を積んで“勘所”を有する弁護士でないと難しいことも多いという。 「必ずしも顧客本位とはいえない確立された慣習がある伝統的な業界に対し、顧客本位の発想に根付いた新たな風を吹き込むことを目指して参入されたベンチャー企業から、従来の業界側企業とのトラブルに発展しかけた事態の解決を求められたことがありました。従来の業界側企業の主張に分がある面もあったことから、その面については真摯に認める一方、将来の事業拡大の足枷にならないような形で話を進め、円満に収まったことがありました。先に進んでいこうというベンチャー企業に対して一旦は諫めるような形になってしまいましたが、結果的にそのベンチャー企業は着々と成長し、今もクライアントとしてサポートさせていただいています。攻め一辺倒ではない、適切な押し引きのサポートをすることが弁護士の役割であると考えています」(三木弁護士)。 「シード期やアーリー期のベンチャー企業は、さまざまなリソースが足りない中で突き進んでいくものですから、法的には万全とはいえない契約を締結したり、必要な手続を見落としたりすることがあります。そして、そのような事象が、事後的に判明し、リカバリーのために奔走する必要が生じることもあります。弁護士の役割は、そのような事象が生じないように予防に努めるのが第一ですが、ベンチャー企業の場合、さまざまな理由で予防しきれないこともありますから、リカバリーにおいても法的に可能な限りのサポートをしたいと考えています。また、私自身は、このあたりは、投資家がベンチャー企業と協働し、またはサポートをすることも期待されるところと考えています。そのため、投資家側をサポートする場合には、投資家としてベンチャー企業をどのような点においてサポートすべきであるかや、いかなる姿勢で臨むのが望ましいかをアドバイスすることもあります」(日野弁護士)。 「イスラエルの法律事務所で研修していた縁で、現地のVCが日本企業から資金調達をする際の支援をすることがあります。イスラエルは軍需技術や大学での研究成果を利用した先進的な技術を持つベンチャー企業が活発に活動しており、世界中の投資家からの注目を集めています。近年は、イスラエルの有望なベンチャー企業への投資機会や将来的な協働の機会を得たい日本企業が現地のVCに出資するケースが増えています。また、日本企業が海外のベンチャー企業へ投資する際の手法としては、コンバーティブルエクイティなど、日本では比較的新しい投資手法が用いられることも多くあり、そのような案件の対応を通じて、我々は国際的なベンチャー法務ならではの経験・ノウハウを蓄積しています」(平野弁護士)。 ベンチャー企業と上場企業 双方の考え方を理解することの大切さ これまで挙げてきたとおり、ベンチャー法務特有の考え方や実務があることは確かであるが、企業法務全般に関する総合力なしには対応できないという。契約書レビュー、労務相談や資金調達から、知財戦略、業法に対する理解、M&A、IPO、ときには紛争案件や、海外向けにサービスを販売したりサービス開発を海外企業に委託したりするときには国際法務まで、ゼネラリスト的能力とスペシャリスト的能力が求められる分野である。同事務所のプロパー弁護士は全員、若手の頃に数年をかけてさまざまな種類の案件を通してゼネラリスト的能力を磨いたのち、スペシャリスト的能力を身につけるキャリアプランに沿っており、三木弁護士と日野弁護士、平野弁護士ともにゼネラリスト的能力を磨いた上で、三木弁護士はM&A・会社法やIPO、日野弁護士はコーポレートや国際法務、平野弁護士はファンド業務や国際法務といったスペシャリスト的能力を身につけつつ、ベンチャー法務を取り扱うようになった。加えて、同事務所は、総合法律事務所として上場企業をクライアントとしていることから、これら3名の弁護士は、ベンチャー企業だけでなく上場企業の業務も広く扱っており、上場企業の考え方に精通していることも強みである。 「双方の考え方に日々触れていることは、例えばベンチャー企業への投資を検討している上場企業に契約書のレビューを求められた際、“このような項目を記載すると反発されかねない”といったことも感覚として判断できます。また、豊富に蓄積された上場企業に対する知見は、ベンチャー企業の経営にも役立つはずです。ベンチャー企業の経営者や事業は個性豊かな独自のものであるべきですが、その管理部門は、リスクを回避し、ビジネスを前進させる役割の点で、上場企業でもベンチャー企業でも求められることに大きな違いはありません。実際、上場企業の管理部門はどのような体制になっているのか、ベンチャー企業から質問されることが多くあります。上場を目指す

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