Japan Lawyers Guide 2022
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 「担当弁護士が一体となって案件に取り組むことは非常に重要ですし、担当する若手弁護士にとっても得るものが多いでしょう」(宮本弁護士)。 債務者企業が、熱意ある若手弁護士に、気軽に何でも質問しやすい環境は、今後の同分野の専門弁護士を育てる上でも欠かせないという。 「私はそうした環境に身を置くことで成長しましたし、クライアントからは案件が終わっても近況報告の連絡をいただいたりします。こうした依頼者との近さは、当事務所で事業再生に携わる大きなやりがいです」(宮本弁護士)。たいと宮本弁護士は語る。 「国際スポーツ仲裁案件の経験のある日本の弁護士はまだまだ少ないのが現状です。また、日本のスポーツ界では紛争が十分に顕在化していないケースが多いように感じます。代表選考や出場停止処分等で日本が関係するトラブルが起こった際は、紛争解決のニーズを適切に拾い上げ、国際的な紛争を含め、公正な解決を促進するアドバイスをしていきたいですね」(宮本弁護士)。 オリンピックでの 国際スポーツ仲裁の経験 スポーツ界の紛争解決ニーズの 充足を目指して 宮本弁護士は近年プロボノ活動をきっかけにオリンピック代表選考に関する国際スポーツ仲裁の経験を得て、新たな専門分野の開拓に意欲を燃やしている。 「1996年のアトランタ大会以降、オリンピック関連の紛争を解決するスポーツ仲裁裁判所(CAS Ad Hoc Division)がホスト国に置かれてきたのですが、この仲裁手続の代理人を用意できない選手や参加国に対してホスト国の弁護士がプロボノでサービスを提供してきました。東京オリンピックでも日本の弁護士がプロボノ・サービスを提供することになり、私がプロジェクトに応募したのがきっかけで、この案件につながりました。もともと自分の関心分野だったのですが、事務所がプロボノ活動を奨励していたので、案件に全力で取り組めました」(宮本弁護士)。 事案は、代表選考に漏れた競泳選手が、選考経緯が恣意的・差別的として、セントクリストファー・ネービスのオリンピック委員会と国際水泳連盟を訴えたものだった。 「コロナ禍でリアルとWebを併用した仲裁でしたが、仲裁人が中国・イタリア・オランダから選定されるなど、関係者の国際色が豊かでした。日本人の弁護士が、CAS Ad Hoc Divisionで代理人となった初の案件と思われ、今後の日本での国際スポーツ仲裁の発展のために貴重な事例になると思います」(宮本弁護士)。 この件をきっかけに、より積極的にスポーツ仲裁案件に取り組み、個人および事務所として開拓していき 豊富な海外制度調査経験を活かし ESGのホットトピックを提供 コーポレート・M&Aやガバナンス対応を主として手がけてきた澤井俊之弁護士は、2018年から約2年の金融庁企画市場局市場課への出向を機に欧州や米国のトレンドを顧客に提供する取り組みを始めた。 「当時は、金融庁が暗号資産に関する規制の強化、顧客本位の業務運営に関する原則の改訂などに取り組んでいる時期で、欧州や米国の先行する制度設計を参照するために現地へ出張し、関係者へのインタビューなどの調査を実施し、ワーキンググループへ報告するという役割を担っていました。そのうちに、欧州の金融規制の関心がESGに向いているにもかかわらず、日本が大きく立ち遅れる状況に違和感を覚えたのです」(澤井弁護士)。 現在は日本でもESG投資等が脚光を浴びるようになり、企業は、機関投資家とのエンゲージメントや、サプライチェーンの人権デューデリジェンス等に向き合うこととなり、澤井弁護士にはその対応についての相談が寄せられている。ESGの分野は法規制よりも実務やソフトローが先行する分野であり、適切な対応には、国内外の機関や団体から矢継ぎ早に公表される指針や報告書類に目を通し、柔軟に対応していくことが求められるという。 「既に欧州で問題視されているグリーンウォッシュの問題などには金融庁でも取締りを強化する動きがあります。国民の視点で見ても、自身の投資マネーの使途への厳しい目が向けられるでしょう。米国ではESG関連の開示内容に誤りがあるとして訴訟も起きています。将来的には日本でもESG関連の開示が義務化されると目されるため、引き続き皆さまがキャッチアップしやすい形で発信していきたいと考えています」(澤井弁護士)。

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