Japan Lawyers Guide 2022
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禍で中国への入国管理・検疫審査が厳しいことも身をもって経験したことから、日本駐在員の派遣の際のハードルや現地で日々発生するさまざまな新しい問題への対応についても北京から伝えています」(若林弁護士)。考え方の違いが表れています。実は、中国の憲法には、“個人の人権を保障する”と明記されていて、“国家、社会、集団の利益ならびにその他公民の自由および権利を害してはならない”という観点からのみ制約されうることになっています。これは、人権が“公共の福祉”により制約を受けると規定されている日本と一見似ています。しかし、実際は中国の方が強く制約されているように見えます。なぜでしょう。それは、“指導者は人民のために人民の権利を制約することが正当化される”という父権主義的な考えが根底にあるからだと考えられます。ルールなどないと思われる方も少なくないと思いますが、価値観が異なっていることを理解し、その価値観に基づいて事案を検討すると、プロジェクトの先行きを見通すことができ、また解決の糸口を見出すことができるようになります」(森脇弁護士)。 「中国では古くから“経済安全保障”という概念が重視されています。中国の法律は、“国益をどのように保護するか”という考えに基づいており、外国企業の誘致も“国益に資するか”という観点によっています。中国が世界第2位の経済大国に躍り出たあたりから経済安全保障という概念に敏感になり、米中貿易摩擦の具現化によってさらに重視されるようになりました。中国の動向を理解することはもちろん、米国はどのような対抗策を打ち出しているか、米国の制裁に従えば中国の制裁を受けるのではないか、大局的な視点が必要です。また、日本企業は和解による穏便な解決を模索しがちですが、必要なときには正当性を主張し、争うことをためらってはいけないと考えます。当事務所では、日本の先端技術を有するメーカーを代理しての中国アンチダンピング案件や、日本企業を代理してのICC、CIETAC、SHIAC、SIACでの仲裁・中国各地での訴訟業務の経験も多く、日本企業の利益、日本の産業政策の発展を常に意識しています」(中川弁護士)。 「次世代情報技術や新エネルギー車など重点分野中川 裕茂弁護士Hiroshige Nakagawa96年京都大学法学部卒業。98年弁護士登録(第二東京弁護士会)。02年米国the University of Illinois at Urbana-Champaign卒業(LL.M.)。03年ニューヨーク州弁護士登録。07~16年アンダーソン・毛利・友常法律事務所北京オフィス首席代表。14年~中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)仲裁人。 中国にとってのルールを正確に理解 日本の国益、日本企業の利益のための リーガルサービス 中国におけるビジネスや法律業務では、国家としての考えが常につきまとう。企業同士の交渉においても共産党の存在は大きく、法律に則ったやりとりなど不可能であると考える日本企業もあるかもしれない。しかし、中国のルールを正しく知れば、中国におけるビジネスは決して難しくないという。 「中国企業との交渉において最も大切なことは、相手の利益に焦点を当てることです。自らと組んでビジネスを手がけることによってどれだけの金銭的な利益が出るか、ということに焦点を当てると交渉もうまく進みます。もちろん、ここに国家としての利益が介入してくることもあり、交渉が難航することもありますが、それでも中国は国家として何を目指しているのか、国家としてどのような利益を得ようとしているのかを理解すればまとまります。日本企業同士のように“あうんの呼吸”で進めるのではなく、国家のルールを理解した上で、自らがやりたいこと、相手がやりたいことをきちんと話し合うべきで、そのサポートは我々のような弁護士でなければできないでしょう」(射手矢弁護士)。 「中国法は日本や欧州の法律と似て非なるものです。中国においては2021年8月に個人情報保護法が制定されました。同法は、元になったといわれる欧州のGDPR(欧州一般データ保護規則)とかなり似通っていますが、そもそも個人の権利に対する考え方が欧州や日本などとは異なります。中国において政治家は“人民の指導者”といわれます。この言葉一つにも、根本的な屠 錦寧外国法事務弁護士Jinning Tu99年中国華東政法大学国際法学部卒業。00年中国弁護士登録。06年京都大学法学研究科修士課程修了(2012年博士号を在職中に取得)、アンダーソン・毛利・友常法律事務所。14年外国法事務弁護士登録(第二東京弁護士会)。21年アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。

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