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はじめに

本連載は、リーガルテック導入やリーガルオペレーションの進化におけるさまざまな課題について、法務部長(佐々木さん)と弁護士(久保)が、往復書簡の形式をとって意見交換します。連載第3回は私、久保光太郎が担当します。

問いかけへの検討
―弁護士は“競争”をどう考える? 弁護士から見た企業法務の課題は何か?

さて、前回の佐々木さんからの問いかけは以下のとおりでした。

  • 弁護士は競争をポジティブに考えているのか。今後、弁護士はどのようにサービスを差別化していくのか。
  • 弁護士から見た企業法務の課題は何か。

今回は、まずこの点について、私の意見をお話したいと思います。

弁護士は競争に対してネガティブ?

誤解を恐れずに言えば、弁護士は人気商売であり、その意味では、芸能人やタレントと似た側面があると思います。いわゆる“ヒナ段芸人”のように代替可能性がある次元にとどまっている限り、熾烈な競争にさらされることは間違いありません。
そこで、若手弁護士たちは、熾烈な競争環境から何とか脱却しようと努力します。その段階から抜け出して固定顧客を獲得したり、一定の分野で“専門家”と認められたりすると、いわば“大御所”クラスとして、それほど競争を意識せずに仕事をすることが可能になります。

このような弁護士のライフサイクル、すなわち“大御所志向”を指して“競争に対してネガティブである”というのであれば、ご指摘はそのとおりかもしれません。
弁護士は専門性を高めれば高めるほど、市場原理が働かなくなります。また、弁護士の業務は、顧客ごと・案件ごとにカスタマイズが必要なので、“‘Apple to Apple’の比較は難しい”という“エクスキューズ(言い訳)”が説得力を持ちます。
このように、今までの弁護士業界は、そのような“勝ち逃げ”が可能な世界であったことは否めません。

リーガルテック時代の競争とは?

その点、私は、将来を見据えた場合に、上記のようなある意味牧歌的な競争環境が今後も続くのか―もっと言うと、「AIをはじめとするテクノロジーやデータの活用が、企業法務の世界を一変させるのではないか」「そのことにどれだけ多くの弁護士が気づいているか」ということに興味を持っています。
本連載第1回において、「リーガルオペレーションの将来において、企業の法務部門にとって、外部の法律事務所はいらなくなるというシナリオはありうるのか?」と問いかけたのも、同じ問題意識から出たものでした。

企業の法務部門がリーガルテックのベンダーを起用して法律実務の課題を解決することになった場合、法律事務所はテックベンダーと競争しなければならなくなるのでしょうか。

弁護士法上、“法律事務”については、弁護士だけがそのサービスを提供することが許されています。ところが、その“外延”は必ずしも明らかではありません。
テックベンダーが特定のお抱え弁護士とコンビを組んでサービスを提供するシナリオが想定されるとすれば、リーガルテックを導入済みの法律事務所と、そうではない法律事務所の間で競争が生じ、リーガルテックの導入が“差別化”の要素になりうるのではないでしょうか。
さらには、いくつかのリーガルテックを標準装備しない限り、法律事務所は競争の土俵にすら上がることができなくなる時代がやってくるのではないでしょうか。
そして、これらの“仮定”の場面が現実になるまでにどれだけの時間が残されているのか。それが、私の危機感の所在です。

リーガルテック時代の競争レイヤー

リーガルテック時代の競争環境について考察を進めると、競争のレイヤーを変える弁護士が出てくることも考えなければなりません。
自らリーガルテックを開発し、そのサービスを独占的に提供しようとする弁護士も出てくるでしょう。特定のリーガルテックと紐づきになるのではなく、さまざまなリーガルテックツールの導入支援を請け負う“リーガル・コンサルティングファーム兼代理店”として活動する弁護士が出てくる可能性もあります。
欧米では最近、ALSP(Alternative Legal Solution Provider)の存在感が増していますが(たとえば、こちらのJETROのレポートをご参照ください)、日本においても、テクノロジーに多大な投資を行っている会計Big Four等のコンサルティングファームと弁護士の競争が激化する可能性もあります。

このように考えていくと、リーガルテック時代の競争は、おそらく巷で議論されるような“機械(AI)vs人間(弁護士)”という単純な構図ではなくなるのではないでしょうか。
競争の主体は引き続き人間同士でありつつも、その中でリーガルテックが、いわば“ゲーム・チェンジャー(きっかけ)”となって、これまでの競争環境(各自の強み、弱みのポジション)を変化させてしまう可能性があるということを念頭に置いておく必要があるように感じます。

誰が競争に生き残るのか?

こうした競争環境の変化は、結果的に、法律事務所の組織構造にも大きなインパクトを与える可能性があります。
企業法務に携わる法律事務所の多くは、現在、少数のパートナーと多数のアソシエイトからなる、ピラミッド構成をとっています。ところが、大手事務所のアソシイトが従来担ってきた労働集約型の作業については、今後AI化が進む可能性が高いと思われます(たとえば、こちらのBCGの分析をご参照ください)。そうすると、法律事務所における人間の役割は、現在パートナー弁護士が担っている、クライアントとのインターフェイスの部分に集約されていく可能性があります。パートナー弁護士は、リーガルテックのサービスやデータを使いこなしつつ、企業の課題を解決する限りにおいて、その存在意義を保つことが可能と思われます。

ここで一つ大きな問題があります。
それは、「企業法務の世界において人間に残された役割(テクノロジーを使いこなして課題を解決すること)は、外部の(パートナー)弁護士か、企業の法務部門のいずれか一方が担えば足りるのではないか」という問いです。
果たして、事業部門の課題を解決する上で、“企業の法務部門と外部の弁護士”という組み合せは、今後も有効なのでしょうか。そう考えていくと、法律事務所にとっての最大の競争相手は、実は企業の法務部門なのかもしれません。企業の事業部門のニーズを適切に理解し、最善のコンサルテーションをする専門家は、企業の内部にいた方がよいのでしょうか。それとも外部にいた方がよいのでしょうか。そもそも、“働き方改革”が今以上に進んで、副業、兼業が当たり前になっていく時代に、“内部”とか“外部”といった境界線は今後も残るのでしょうか。

佐々木さんからは、“弁護士から見た企業法務の課題”についても聞かれていましたが、“内部”とか“外部”といった境界線が相対化していった場合、企業の法務部門が向き合うべき課題は、ここまでお話ししてきたような外部の弁護士や法律事務所の課題と共通してくるのではないかと思われます。

弁護士から法務部長への問いかけ

企業法務における人間の役割は何か? リーガルテックをどの程度信頼し、もしAIに間違いがあった場合に、誰が責任を負うのか?

以上、考えすぎのところもあると思いますが、私の問題意識を敷衍してみました。ちょっと抽象的で、目の前の実務課題から離れてしまったかもしれませんが、今度は企業法務の側から、“企業法務における人間の役割”について、佐々木さんのお考えをぜひお聞きしてみたいと思います。
このほか、「現在のリーガルテックをどの程度信頼しているか」「もしAIが間違った場合に、誰が責任を負うと考えているのか」という問題についてもお聞きしたいと思います。

→この連載を「まとめて読む」

久保 光太郎 氏

AsiaWise法律事務所 代表弁護士
AsiaWise Digital Consulting & Advocacy株式会社 代表取締役
AsiaWise Technology株式会社 代表取締役

1999年慶応大学法学部卒。2001年弁護士登録、(現)西村あさひ法律事務所入所。2008年コロンビア大学ロースクール(LL.M.)卒。2012年西村あさひシンガポールオフィス立ち上げを担当し、共同代表就任。2018年独立し、クロスボーダー案件に特化した法律事務所としてAsiaWise Group/AsiaWise法律事務所を設立。2021年データを活用するプロフェッショナル・ファームのコンセプトを実現すべく、AsiaWise Digital Consulting & Advocacy株式会社と、その双子の会社としてAsiaWise Technology株式会社を設立。

『リーガルオペレーション革命─リーガルテック導入ガイドライン』

著 者:佐々木 毅尚[著]
出版社:商事法務
発売日:2021年3月
価 格:2,640円(税込)